「他の人に尽くす君が美しいから君以外に愛想を振りまくんだよ」
流れのない空気は音を驚くほど響かせる。さながら宇宙のような静けさ。響く度に鮮明になる。瞳の奥に染み込んで思わず泣いてしまった。
湿った繊維に染み込む中東まがいの悪臭が、ストッキングの伝線かのように脳漿に浸透する。
全てに負けた後、出来ることは跡を濁さない事だ。時間を待って成熟させるはずだった希望は既に、熟成をとりやめ腐敗へと向かった末、自制と抱き合いながら心中した。
反応のない握手に苛立ちながら右手を前に差し出す。結果は想像以上に想像以下で、信じられないほどに信じた物からは信じられないほどの軽い刺し心地が伝わった。
刺した感触がないから何度も何度も何度も何度も刺すしかありませんでした。
二百ほど繰り返した後、私は初めてそれを人であると認識出来るようになった。
幾度傷つけられた肉、内臓。赤に染まっているから赤く見えているのだと認識する純白の骨は求めていた中身そのものだ。
遂に知ることのできた自分だけの「人間」の奪取に歓喜の声を上げる。一つだけが騒がしく動くのみとなったこの家は、より空気が冷えていく。
これら一連は第三者にとって理解しかねる。よって後の行動についても理解しかねるだろう。仮に私なら一目散に抱えこみ共に心中。つまり、跡は濁さない。自分に強く言い聞かせる。