今週のお題「美容室でする話」より
大学生の時、髪は隣人の女性に切ってもらっていました。
その人は、美容師になるための専門学校に通っていたわけでもなく、人の髪を切ることが好きだとかそういうわけではないのです。ただ、美容室という空間そのものに強い嫌悪感を抱いていて、髪が肩まで伸びるたびに、その伸び切った髪を、いつものように自分の手で切るのです。
美容師の手による散髪には、シャワーやドライヤーが使われますよね。散髪全体に一定の流れはあるものの、その所作は常に流動的で、目まぐるしく変わっていく。手際よく動く手元は軽やかで、舞うように髪を切り揃えていきます。美容師にとってほとんどの場合、その髪は初めて触れるものです。その人に似合う形を、その場で探りながら整えていく即興性のようなものがあるのだと私は考えます。
けれど、彼女が行うただ一本のはさみだけで進めていく散髪には、別の種類の美しさがありました。十分に手入れされていない髪であっても、毛髪の一本に至るまですべてを把握しているかのようでした。細やかな手のタッチから生まれるその静かで洗練された動きは、散髪よりも順序立てられた儀式に近いものでした。どこか神聖なものさえ感じ取れたのです。